大気汚染の原因とは?その影響と世界や日本の対策についてわかりやすく解説

工業化や都市化に伴い、私たちの生活環境に有害物質が増加し大気汚染の深刻化が問題となっています。
大気汚染状態になると健康への悪影響を引き起こすだけでなく、地球規模での気候変動も加速させてしまいます。

このような状況を改善するためには、今すぐに行動を起こすことが求められています。
本記事では、大気汚染の原因とその影響、大気汚染を防ぐための対策について詳しく解説します。

大気汚染とは?

大気は、地球を取り巻く気体の層であり、主に窒素(約78%)、酸素(約21%)、その他の微量なガス(アルゴン、二酸化炭素など)で構成されています。この大気は地球の生命を支え、地球の温度を一定に保ったり天候を調整したりする役割を果たしています。

大気汚染とは、この大気が人間活動や自然現象が原因で有害な物質が過剰に放出されることにより汚染された状態を指します。
大気中に放出された有害物質は大気を汚すだけでなく、健康被害(呼吸器疾患、心臓病など)や環境への悪影響(酸性雨、オゾン層の破壊)をも引き起こすため、その対策が急務となっています。

大気汚染の主な原因

大気汚染の原因は、大きく分けて自然活動と人間活動の2つに由来します。 ここからは、大気汚染物質にはどのようなものがあるのか、また大気汚染物質が排出される具体的な原因についてみていきましょう。

大気汚染物質の種類

大気汚染の原因物質は多岐にわたります。
以下に大気汚染の原因物質とその発生原因をご説明します。

  • 二酸化硫黄(SO₂): 工場や発電所での化石燃料の燃焼によって発生。
  • 窒素酸化物(NOₓ): 自動車の排気ガスや工業活動から排出。
  • 一酸化炭素(CO): 不完全燃焼による排出(自動車、暖房器具など)。
  • 揮発性有機化合物(VOCs): 塗料、溶剤、燃料の蒸発や工業プロセスから発生。
  • 微小粒子状物質(PM2.5、PM10): 自動車の排気ガス、工場の排煙、建設活動、森林火災などから発生。
  • オゾン(O₃): 地上での窒素酸化物と揮発性有機化合物の光化学反応により生成。
  • 鉛(Pb): 鉛を含む燃料の燃焼や工業プロセスから排出。
  • アンモニア(NH₃): 農業活動(肥料の使用や家畜の排泄物)から発生。

自然活動による大気汚染

自然活動によって大気が汚染されることもあります。
例えば、火山の噴火や森林火災といった自然活動は大気汚染物質を排出します。

では実際これらの自然活動によって地球にどのような影響が出ているのか見ていきましょう。

火山噴火

火山噴火は私たちの命や生活を脅かすだけでなく、地球の気候にも大きな影響を与えます。
噴火によって放出される火山ガスには様々な物質が含まれています。火山ガスに含まれる硫黄酸化物(SOx)は、大気中の水蒸気と反応して硫酸エアロゾルという物質を形成します。
この硫酸エアロゾルは大気中に滞留することで、太陽光を反射し地表へ届く光を減少させる効果と、熱を吸収し大気を暖める温室効果の機能を持っており、地球の温度に影響を与えています。
実際に、1783年にアイスランドで発生したラキ山の噴火の後には、ヨーロッパ各地で夏は記録的な猛暑、冬は非常に寒い冬になったと記録されています。

他にも硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)は、大気中で光化学反応などの化学変化を起こし、硫酸や硝酸となって降水に溶け込み、酸性雨となります。
さらに火山の噴火では二酸化炭素(CO2)も大量に排出するため、温室効果を促進し地球温暖化の原因にもなっています。

森林火災

森林火災が発生すると、大気中に大量の煙や有害物質を放出します。
この煙には粒子状物質(PM)や一酸化炭素、二酸化炭素、メタンなどが含まれており、これらが大気汚染の主要な原因となります。
粒子状物質(PM)は特に健康に悪影響を及ぼし、呼吸器系疾患や心血管疾患のリスクを高めます。
さらに、火災によって森林が失われることで、二酸化炭素の吸収能力が低下し、長期的な大気汚染の悪化にもつながります。
森林火災は大気中の二酸化炭素濃度を急激に増加させ、地球温暖化を加速させる要因ともなります。

人間の活動による大気汚染

ここまで自然活動による大気汚染について説明してきました。
しかし、現在問題視されている大気汚染の原因の大部分は、人間の活動によって排出された有害物質とされています。

ここからは私たち人間の活動によって、どのように大気汚染物質が排出されているのかご説明します。

工場・火力発電などの生産活動

工場や火力発電所では、エネルギーの生産や製品の製造過程において大量の有害物質を大気中に排出します。
特に、化石燃料(石炭、石油、天然ガス)の燃焼は、硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)、粒子状物質(PM)などの大気汚染物質を発生させます。
これらの物質は私たちの生活に大きな影響を与えており、硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)は酸性雨の原因、粒子状物質(PM)は肺や気管等の呼吸器疾患を引き起こすなど、自然環境や人の健康に悪影響を及ぼします。
また石炭を燃料とする火力発電所は、大量の二酸化炭素(CO2)を排出し、地球温暖化の主要な原因となっています。

自動車からの排気

自動車はガソリンや軽油を燃焼させて動力にしています。その過程でガスを排出しており、このガスが大気汚染の一因となっています。
代表的な物質として、窒素酸化物(NOx)、粒子状物質(PM)などが大気汚染の原因とされています。
自動車から排出された窒素酸化物(NOx)は太陽から発せられた紫外線を受けて光化学反応を起こし、光化学オキシダント(Ox)という物質に変化します。
この光化学オキシダント(Ox)が濃くなると、光化学スモッグを引き起こします。光化学スモッグは私たちの人体に被害をもたらすためその発生を防ぐ必要があります。

一般家庭や企業による排出

一般家庭や企業からの排出も大気汚染の重要な原因の一つです。
家庭やオフィスでは、日常生活や業務活動でのゴミの焼却や冷暖房器具の使用により、有害物質が大気中に放出されます。特に家庭ゴミの焼却は、ダイオキシンなどの有害物質を大量に発生させるリスクが高まります。
また、企業活動でも化学工場や製造業からの有害物質の排出が問題となっており、これらの活動が人の健康や環境全体に悪影響を及ぼしています。

大気汚染が引き起こす様々な問題

ここまで大気汚染の原因について紹介してきました。
先の内容でも少し触れましたが、ここからは大気汚染が深刻化することで発生する問題について、具体的にご説明します。

健康被害とその症状

大気汚染が引き起こす健康被害は深刻です。
工場や車から放出される排気ガスや煙に含まれる化学物質は、呼吸器系疾患を引き起こす原因となります。
特に光化学オキシダントやスモッグは、気道を刺激し、喘息や気管支炎などの症状を悪化させます。また、長期間にわたる暴露は肺がんや心臓疾患のリスクも増加させます。
排気ガスには有害な化学物質が含まれており、こうした物質が人間の健康に直接的な悪影響を与えます。
特に都市部では、通勤や生活の中でこれらの有害物質にさらされる頻度が高く、健康リスクがさらに増大します。

自然環境や地球温暖化への影響

自然環境や地球温暖化に与える影響も深刻です。
工場や車両から排出される煙や排気ガスには温室効果ガスが含まれており、これが地球温暖化を進行させます。その結果、気温の上昇や異常気象が頻発し、環境全体に深刻な問題が発生します。
さらに、酸性雨が降ることで森林や湖沼が損なわれ、生態系のバランスが崩れます。
大気中に蓄積された汚染物質は、自然環境の質を低下させ地球温暖化の進行を加速させます。
この影響は世界全体に波及しており、持続可能な環境保護の重要性がますます高まっているのです。

経済への影響

大気汚染が経済に与える影響についても考慮する必要があります。
健康被害が増加することで、日本や世界各地での医療費が急増します。これは、大気汚染が原因となる呼吸器疾患や心臓病などの治療が増加するためです
。健康被害による労働力の低下は生産性の低下を招き、結果として経済全体に悪影響を及ぼすことになります。
さらに、大気汚染に関連する死亡も増加し、労働者人口の減少を引き起こすことが懸念されています。そのため、早急かつ効果的な対策が求められています。
また、環境改善を目的とした技術開発や改装には大きな投資が必要となり、これも経済に重くのしかかります。

世界と日本における大気汚染対策

大気汚染は国際的な問題であり、各国がさまざまな対策を講じることで改善を目指しています。 では世界各国ではどのような取り組みが進められているのでしょうか。

世界の現状と対策

– インド

インドは、急速な経済成長と都市化に伴い、大気汚染が深刻な問題となっています。
大気汚染対策としてインド政府は2047年までにインドをエネルギー分野で自立させることを目標に掲げています。
2024年2月時点では、再エネの発電容量は183GWと10年間で約2.5倍に増加し、インド全体の発電容量の42%を占めています。現在インド政府は、2023年度から5年間にわたって毎年50GWの再生可能エネルギー容量を増設する計画を進めており、国際公約として掲げていた、2030年までに非化石燃料エネルギー容量を500GWまで増加させることが達成に近づいています。

– 中国

中国は急速な経済成長の影響で深刻な大気汚染問題に直面しています。
2010年代に深刻な大気汚染状態に陥って以降、環境規制等強化や、再生可能エネルギーへの転換といった抜本的な環境対策に取り組んだ結果、2022年にはPM2.5の濃度が66.5%減少しました。
国連環境計画(UNEP)は、北京の大気汚染に対する過去20年間の取り組みに関する報告書で、「このような偉業を成し遂げた都市や地域は、地球上どこにもない」とたたえています。
新たに2023年12月に発表された大気汚染改善に向けた行動計画では、2025年までに大気中のPM2.5濃度を2020年時点から10%削減するとともに、深刻な大気汚染発生日数を1%未満に抑制することを目指すとされています。
また世界に先駆けてEV市場を形成した中国では、年間の自動車販売台数のうち約25%がEV等に切替わり、今後もその流れは加速していくと言われています。

これらの対策により、中国の空気質は徐々に改善されつつありますが、まだ他の国と比較すると大気汚染の度合いは深刻であり、持続可能な効果を得るためには引き続き大規模な取り組みが必要となっています。

– EU

近年、EUでは大気汚染の防止に向けた法律が制定され、大気汚染物質の削減に向けた取り組みが行われています。

EU大気質指令は、12種の大気汚染物質の大気中限界値や年間許容超過日数などの基準や規制目標を定めており、これを遵守することを求めています。この指令に基づき、各国は大気質改善のための具体的な行動計画を策定しており、EU全体での大気質改善が進んでいます。特に、二酸化窒素(NO2)濃度の低下が顕著であり、これにより住民の健康被害が軽減されています。
また、自動車排出基準では、二酸化炭素(CO2)排出量に対する厳しい基準が設けられており、2025年からは新車の二酸化炭素(CO2)排出量を2021年比で15%削減し、排出上限値を1キロ当たり93.6グラムに引き下げることを予定しています。この基準により、電動車両の普及を加速させることを目指しています。
さらに、ロンドンやパリなどの大都市では低排出ゾーンが設定され、特定の車両の進入が制限されています。この制度により、イギリスでは市内中心部に乗り入れる排ガス量の多い車は、1日あたり13,500台減り排出ガスの減少につながったとされています。さらに都市部の空気質が改善され、特にロンドンでは窒素酸化物(NOx)濃度が大幅に減少しています。

日本の対策

日本の大気汚染の背景

具体的な施策の内容を見ていく前に、日本における大気汚染が深刻化した背景について見ていきます。
日本の大気汚染の背景には、産業化と都市化が大きく関係しています。 戦後の高度経済成長期には、エネルギー消費の増加とともに工場や車から大量の排気ガスが排出され、大気中に有害物質が増加しました。 特にディーゼル車の普及により、窒素酸化物(NOₓ)や微小粒子状物質(PM2.5)が問題となりました。
さらに、偏西風によって中国からの大気汚染物質が飛来し越境汚染の影響も受けています。 都市部では人口密集が進み、家庭やオフィスからの排出も大気汚染の一因です。

このような複数の要因を背景に、日本は大気汚染の改善に向けて様々な対策を講じています。

– 大気汚染防止法

日本における大気汚染防止対策の柱となるのが「大気汚染防止法」です。
この法律は、工場や製造施設など固定発生源から排出される煙やガスの種類とその濃度を厳しく管理し、健康や環境への影響を最小限に抑えることを目的としています。
この法規制により、大気中の有害物質の濃度が効果的に減少し、国民の健康と生活環境が守られています。
環境省は、法の実施状況を定期的に監視し、問題が発生した場合には適切に対策を強化しています。
これにより、日本全体で大気汚染の原因となる物質の排出が効果的に抑制されています。

– 自動車NOx・PM法

日本の大気汚染対策の一環として、「自動車NOx・PM法」があります。 この法律では、自動車から排出される窒素酸化物(NOx)と微小粒子状物質(PM)の削減を目指しています。
特に都心部では、これらの物質が地球温暖化や公害の原因となるため、厳しい排出基準が設けられています。 この法の実施により、年式が古い車の排ガス規制が強化され、環境に配慮した車の導入が促進されています。 地方自治体も積極的な取り組みを行っており、エネルギー効率の高い交通手段の普及が進められています。
自動車は、人々の生活に必要不可欠な存在ですが、一方で排出ガスが大気汚染の大きな原因となっています。 自動車から排出されるNOxは、呼吸器疾患や酸性雨の原因にもなります。 さらに、PMは微細な粒子であり、人間の肺に入り込みやすく、健康に深刻な影響を与える可能性があります。
このため、「自動車NOx・PM法」は、健康被害を防止するために重要な役割を果たしています。

大気汚染を防ぐために個人でできる対策

大気汚染を防ぐためには、個人の努力が不可欠です。 そこで、日常生活で行える具体的な対策を3つ紹介します。

移動は徒歩・自転車か公共交通機関を利用する

車の使用を減らすことで、大気中の有害物質の排出を大幅に削減できます。 自動車が排出する有害物質には、二酸化炭素(CO2)、窒素酸化物(NOx)、微小粒子状物質(PM2.5)などが含まれます。 これらの物質は大気汚染の主な原因であり、健康被害を引き起こす可能性もあります。 そのため、通勤や買い物などの日常の移動手段として、徒歩や自転車、公共交通機関の利用が推奨されます。
これにより、車の使用頻度が減り、大気中の有害物質の削減につながります。 また、公共交通機関は一度に多くの人を移動させるため、エネルギー効率が向上し環境負荷を軽減できます。

エネルギーを無駄遣いしない

日常生活でのエネルギーの使用を見直すことは、大気汚染の対策として非常に重要です。
たとえば、電気を無駄にしないように心がけることで、火力発電所からの窒素酸化物(NOx)や二酸化炭素(CO2)の排出を効果的に減らすことが可能です。 具体的な方法としては、エアコンの温度を適切に設定し、必要のない電化製品の使用を控えることが挙げられます。 また、日々使用する家電製品を省エネルギーモデルに切り替えることも有効です。
これにより、個人が環境に与える負荷を軽減し、持続可能な生活を実現することができます。 エネルギーの無駄遣いを減らすことは発電所で作るエネルギーの量を減らすことにも繋がり、大気汚染防止に寄与します。

再生可能エネルギーに注目してみる

再生可能エネルギーの利用拡大は大気汚染対策に大いに役立ちます。 日本でも、太陽光発電や風力発電の導入が進められていますが、個人レベルでもその利用を心がけることが重要です。
たとえば、火力発電に頼らず、自宅に太陽光パネルを設置することや、再生可能エネルギーを提供する電力会社に切り替えることが挙げられます。 これにより、二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの排出を減少させることができます。
また、世界各国でも再生可能エネルギーの利用が進んでおり、ヨーロッパ諸国を中心に積極的に取り組みが進められています。
こうした先進事例を参考にすることで、日本でもよりクリーンなエネルギー社会を実現することが期待されます。

【まとめ】大気汚染を防ぎ綺麗な地球を保とう!

大気汚染は人間の健康や環境、そして地球温暖化に多大な影響を及ぼす深刻な問題です。 その主な原因としては、工場や火力発電所から排出される有害物質、車の排気ガス、そして自然な活動によるものがあります。 これらの大気汚染物質は光化学スモッグや酸性雨を引き起こし、健康被害や環境破壊をもたらします。
日本や世界各国が様々な対策を講じているものの、個人の取り組みも大切です。 エネルギーの無駄遣い防止や再生可能エネルギーの活用、公共交通機関の利用などがその一例です。 身近な行動によって大気汚染の原因を減少させ、効果的な対策を実現することが求められます。
個々の小さな行動が、日本や世界全体の環境改善に繋がります。自然と調和した生活を心がけ、持続可能な未来を築くために努力し続ける必要があります。 大気汚染の問題とその原因、具体的な対策を理解し、日常生活に取り入れることが綺麗な地球を保つ第一歩です。 環境や人の健康を守るため、今一度生活を見直し、できることから始めましょう。