温室効果ガスについて、「名前は聞いたことあるけど、具体的にどんなものかよくわからない」という方もいるのではないでしょうか。温室効果ガスは、地球の温度を保つために必要なものですが、増えすぎると地球温暖化を引き起こします。
ここでは、温室効果ガスとは何か、その種類や増える原因、そして私たちの暮らしや企業活動にどのような影響があるのかを簡単にかつわかりやすく解説します。
温室効果ガスとは何か
地球の表面は窒素や酸素などの大気に覆われており、温室効果ガスはこの大気の中にわずかに含まれています。
温室効果ガスは、地球の表面から放出される熱(赤外線)を吸収し、再び地球の表面に戻す性質を持っています。英語では Greenhouse Gas と言い、その頭文字をとってGHGという略称でも呼ばれています。
温室効果ガスの働きにより、地球の平均気温は約14℃に保たれており、生物が生存しやすい環境が維持されています。気象庁によれば、仮に温室効果ガスが全く存在しなかった場合、地球の平均気温はマイナス19℃になると考えられています。
では温室効果ガスが必要以上に増えるとどうなるのでしょうか?温室効果の働きが強まり地球の平均気温が上昇してしまいます。これが近年問題視されている地球温暖化につながるのです。
ここまで話を聞くと温室効果ガスは、地球にとって悪いものと捉える方もいるかもしれません。しかしその全てが悪いわけではなく、先ほども述べたように地球の温度を保つ機能のある温室効果ガスは必要不可欠な存在と言えるでしょう。つまり、我々は経済活動によって温室効果ガスが過剰に増えすぎないようにする必要があるのです。
温室効果ガスの種類
「地球温暖化対策の推進に関する法律」で定められている温室効果ガスの種類は、主に二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、そしてフロン類などの代替フロン等7種類があります。これらのガスが地球温暖化に影響を与えています。温室効果ガスは、人間の活動に伴って排出される人為起源のものと、自然界から排出されるものがありますが、近年問題となっているのは人為起源の温室効果ガスの増加です。
ここからは温室効果ガスの種類について詳しくみていきましょう。
二酸化炭素
二酸化炭素(CO2)は、温室効果ガスの中でも最も排出量が多く、地球温暖化への影響が最も大きいと考えられています。その主な発生源は、石炭や石油、天然ガスといった化石燃料の燃焼です。自動車や飛行機を動かす際、電気を作る際、工場で製品を生産する際など、私たちの日常生活や産業活動の様々な場面で化石燃料が消費され、二酸化炭素が排出されています。
また、森林破壊も二酸化炭素濃度の上昇につながります。樹木は光合成によって大気中の二酸化炭素を吸収しますが、森林が減少するとその吸収量が減少し、さらに伐採された樹木が燃やされることで貯蔵されていた炭素が放出されるため、大気中の二酸化炭素が増加するのです。
<補足>
二酸化炭素と温室効果ガスの関係について、似たような意味で使われるため混同されがちですが、温室効果ガスは総称で二酸化炭素はその一種であるという違いがあります。
メタン
メタン(CH4)は、二酸化炭素に次いで地球温暖化への影響が大きい温室効果ガスです。メタンは天然ガスの主成分でもあり、湿地や水田で植物が枯れて分解される際に自然発生するほか、牛や豚などの家畜の消化過程でのゲップや排泄物からも発生します。また、天然ガスの採掘や輸送、廃棄物の埋め立てなどもメタンの発生源となります。人為的な要因としては、農業活動や化石燃料関連の活動がメタン排出量の増加に大きく関わっています。
一酸化二窒素
一酸化二窒素(N2O)は、温室効果ガスの一種で、主に農業活動や産業活動、化石燃料の燃焼、そして自然界の土壌や海洋から発生します。特に農業分野では、肥料の使用に伴って多く排出されることが知られています。また、化学工業の製造プロセスや自動車の排気ガスからも発生します。一酸化二窒素は、大気中での寿命が比較的長く、強力な温室効果をもたらすため、排出量の削減が重要視されています。
フロン類
フロンは炭素とフッ素が結びついてできており、人工的に作られた化学物質です。かつてはエアコンや冷蔵庫の冷媒、スプレーの噴射剤などに広く使われていました。オゾン層を破壊する性質を持つため、国際的な取り決めによって生産や使用が制限されてきましたが、現在ではオゾン層を破壊しない代替フロン(ハイドロフルオロカーボン類、パーフルオロカーボン類、六ふっ化硫黄、三ふっ化窒素など)が広く利用されています。
しかし、これらの代替フロンにも問題点があります。代替フロンは二酸化炭素よりも強力な温室効果を持っており、その排出量が増加傾向にあるため、地球温暖化対策として排出削減が求められています。
温室効果ガスの割合
排出される温室効果ガスのうち、その排出量の内訳はガスによって大きく異なります。IPCC第6次報告書によると、最も多い割合を占めているのが二酸化炭素で温室効果ガス全体の75%を占めています。次いでメタンが18%を占め、一酸化二窒素が4%、フロン類を含むその他のガスが2%となっています。このことから、温室効果ガスの削減においては二酸化炭素の排出量削減が特に重要であることがわかります。日本国内においても、温室効果ガス排出量の9割以上を二酸化炭素が占めているため、削減に向けた具体的な施策に取り組む必要があります。
温室効果ガスが増加する原因
温室効果ガス、特に二酸化炭素が急速に増加した最大の原因は、18世紀後半の産業革命以降の経済活動の活発化です。産業の発展に伴い、石炭や石油、天然ガスといった化石燃料が大量に使われるようになりました。これらの化石燃料を燃焼させると、大量の二酸化炭素が空気中に放出されます。
また、経済成長や人口増加に伴うエネルギー消費量の増加、自動車の普及によるガソリン消費の増加も温室効果ガス排出量の増加に影響しています。
さらに、農地拡大や木材利用のための森林伐採なども、二酸化炭素を吸収する森林の減少につながり、結果として大気中の二酸化炭素濃度を高める原因となっています。
地球環境への影響
温室効果ガスの増加による地球温暖化は、地球環境に様々な深刻な影響をもたらしています。気温の上昇は、北極や南極、高山にある氷や氷河の融解を引き起こし、海水面の上昇につながります。これにより、海抜の低い沿岸地域や小さな島国は水没の危機に瀕しています。また、気温や気候パターンの変化は、異常気象を頻発させます。大雨や洪水、干ばつ、熱波、強力な台風やハリケーンの増加などが世界各地で観測されており、人々の生活やインフラに甚大な被害を与えています。
さらに、生態系への影響も深刻です。生息地の変化や消失により、多くの動植物が絶滅の危機にさらされています。農作物の収穫量減少や品質低下、病害虫の増加なども懸念されており、食料供給への影響も無視できません。
温室効果ガス削減に向けた各国の取り組み
地球温暖化という地球規模の課題に対処するため、世界各国が温室効果ガスの削減に向けた取り組みを進めています。国際的な枠組みとして、2015年には「パリ協定」が採択されました。これは、世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力を追求することを長期目標として掲げ、すべての国が削減目標を設定し、5年ごとに見直すことを義務付けているものです。
各国は、パリ協定の内容に基づき、それぞれの事情に応じた削減目標(NDC)を設定し、その達成に向けた政策や施策を実施しています。
世界の削減施策
地球温暖化対策は世界共通の課題であり、パリ協定のもと各国が温室効果ガス削減目標(NDC)を設定し、取り組みを進めています。
EUは2030年までに温室効果ガスを1990年比で55%削減し、2050年までにカーボンニュートラルを目指しています。そのために、再生可能エネルギーの拡大や産業の脱炭素化、エネルギー効率の向上に力を入れています。ドイツでは自動車の循環型モデルが実施されている他、ベルギーでは洋上風力の活用を進め、2040年までに再生可能エネルギーの割合を全体の40%、2050年には100%再生可能エネルギーに転換する目標を掲げています。
アメリカは2030年までに温室効果ガス排出量を2005年比で50%~52%削減することを目標とし、再生可能エネルギーの拡大や電気自動車の普及促進、クリーンエネルギー技術への投資を進めています。特に自動車やトラックなどから排出される温室効果ガスは全米の約30%を占めているため、ゼロエミッションカーの導入に向けたプロジェクトが進められています。
中国は温室効果ガス排出量が世界最多の国です。その中国は経済発展と脱炭素の両立を目指すため、2030年までにCO2排出量を減少に転じさせ、2060年までにカーボンニュートラルを目指すとしています。経済的な側面から見ると、世界のカーボンニュートラル実現に向けて需要が見込まれる太陽光パネルは、中国の企業が世界シェアの上位を占めており、両立に向けた動きが進んでいることがわかります。
その他の国でもエネルギー供給の低炭素化や省エネルギー、カーボンプライシング制度の導入など、それぞれの状況に応じた多様な施策を展開しています。
日本の削減施策
日本も国際的な枠組みに沿って、温室効果ガス削減目標を設定し、様々な施策を実施しています。2020年には政府が「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすることを目指しています。
これに向け、2030年度には2013年度比で温室効果ガス排出量を46%削減するという高い目標を掲げています。
具体的な施策としては、再生可能エネルギーの最大限の導入、省エネルギーの一層の推進、電力部門の脱炭素化、水素やアンモニアといった脱炭素燃料の活用、産業構造の転換、炭素回収・貯留技術(CCS)の開発・導入などが進められています。また、企業の排出量情報のオープンデータ化も義務付けられるなど、企業に対する排出削減の要請も強まっています。
環境省によると、日本の2023年度の温室効果ガスの排出量は、2022年度と比較して4.2%減少し、10年前の2013年度と比較すると27.1%減少しています。このことからも日本の削減施策は効果を上げていることがわかります。
企業が取り組む温室効果ガスの削減対策
温室効果ガス排出量削減は、持続可能な社会の実現に向けた企業の重要な責務となっています。多くの企業がカーボンニュートラルの実現を目指し、具体的な目標を設定して様々な対策を講じています。
例えば、株式会社セブン&アイ・ホールディングスは「GREEN CHALLENGE 2050」を掲げ、店舗運営におけるCO2排出量を2030年までに2013年度比で50%削減、2050年までに実質ゼロにする目標を設定しています。
また、東芝は「環境未来ビジョン2050」に基づき、2050年までにバリューチェーン全体でのカーボンニュートラル実現を目指し、温室効果ガス削減に貢献する商品・サービスの開発や提供にも注力しています。
三井不動産株式会社も、2050年度までのカーボンニュートラル達成に向け、2030年度までに温室効果ガス排出量を2019年度比で40%削減することを目標としており、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)やZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)といった省エネルギー性能の高い建築物の普及を推進しています。
これらの企業は、事業活動で使用するエネルギーの再生可能エネルギーへの転換、省エネルギー設備の導入、生産プロセスの改善に加え、サプライチェーン全体での排出量削減やリモートワークの促進など、多岐にわたる取り組みを進めています。企業の温室効果ガス削減に向けたこれらの努力は、環境負荷の低減だけでなく、新たなビジネス機会の創出や企業価値の向上にも繋がっています。
温室効果ガスを減らすには
温室効果ガスを減らすためには、国や企業の大きな取り組みだけでなく、私たち一人ひとりの日々の行動も重要です。家庭でできる取り組みも多くあり、これらを実践することで、温室効果ガスの排出量を減らすことに貢献できます。例えば、日常生活でのエネルギー消費を見直すことや、環境に配慮した製品を選ぶことなどが挙げられます。小さなことでも多くの人が取り組むことで、大きな削減効果が期待できます。
家庭でできる温室効果ガスの削減方法
家庭から排出される温室効果ガスのうち、多くの割合を占めるのが電気、ガス、ガソリンの使用に伴うものです。したがって、これらのエネルギー消費を減らすことが、家庭での温室効果ガス削減に繋がります。日々の暮らしの中で少し意識を変えるだけで、無理なく取り組めることがたくさんあります。これから紹介する3つ取り組みは温室効果ガスの削減につながるのみならず、SDGsにも繋がり社会全体にとって良い影響を与えることができます。ぜひできるものから実践していきましょう!
電気の使用方法の見直し
家庭での二酸化炭素排出量の約半分は電気が占めています。節電は温室効果ガス削減に直結する効果的な方法です。まず、使用していない電化製品の主電源を切ったり、コンセントからプラグを抜いたりして待機電力を減らしましょう。
冷房・暖房の使用を控えることも重要です。エアコンの設定温度を夏は28℃、冬は20℃を目安にし、扇風機やサーキュレーターを併用することで冷暖房効率を高めることができます。
照明器具を省エネ性能の高いLED電球に交換したり、使用しない部屋の照明をこまめに消したりするのも効果的です。
冷蔵庫については、物を詰め込みすぎないように整理し、開閉時間を短くすることで電力消費を抑えられます。
また、古い家電は最新のものと比べて消費電力が大きい場合が多いため、買い替えを検討する際には省エネ性能を示すラベルを参考にすると良いでしょう。
さらに、自宅に太陽光発電設備を設置することが難しい場合でも、契約している電力会社を再生可能エネルギー由来の電力プランに切り替えることで、間接的に温室効果ガス排出量の削減に貢献できます。
車の使い方見直し
家庭からの温室効果ガス排出量のうち、自家用車の利用が大きな割合を占めています。車の使い方を見直すことは、温室効果ガス削減に非常に効果的です。
近距離の移動であれば、車を使わずに徒歩や自転車を利用しましょう。移動距離が長い場合は、電車やバスといった公共交通機関の利用を検討します。車を使用する際には、急発進や急ブレーキを避け、一定速度で走行するエコドライブを心がけましょう。アイドリングストップも効果的な削減方法です。
また、同じ方向へ行く場合はできるだけ相乗りすることも、一台あたりの排出量を減らすことに繋がります。
電気自動車への買い替えも、走行中の排出ガスをゼロにできるため、長期的な視点で見れば温室効果ガス削減に大きく貢献します。
ガスの使い方見直し
家庭でガスを使用する機会としては、給湯やお風呂、キッチンなどがあります。お風呂に関しては、シャワーを出しっぱなしにせず、こまめに止めることでガスやお湯の無駄を減らせます。
湯船にお湯をためる際は、間隔をあけずに家族が続けて入るようにすると追い焚きの回数を減らせ、ガス消費を抑えられます。
キッチンでは、煮物をする際に落し蓋をしたり、鍋底から炎がはみ出さないように火力を調整したりすることで、効率よく調理できガスを節約できます。
温水洗浄便座の設定温度を低くしたり、使用しない時は蓋を閉めたりすることも節ガスに繋がります。
【まとめ】温室効果ガスの理解を深め、快適な地球を守る行動をしよう!
温室効果ガスは、地球の温度を快適に保つために本来必要なものですが、産業革命以降の人間活動によってその濃度が急激に増加し、地球温暖化という深刻な問題を引き起こしています。地球温暖化は、海面上昇や異常気象の増加、生態系の変化などの気候変動をもたらし、私たちの暮らしや将来に大きな影響を与えます。
この問題に対処するため、世界各国や企業は温室効果ガス削減に向けた目標を設定し、様々な取り組みを進めています。
私たち一人ひとりも、日々の生活の中で電気やガス、車の使い方を見直すなど、身近なものから温室効果ガス削減に貢献していくことが重要です。これを機にライフスタイルを見直してみるのも良いかもしれません。